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山口地方裁判所 昭和27年(行)21号 判決

原告 藤村金次郎

被告 山口県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用を原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が山口県玖珂郡高森町大字下久原中宇谷二千三百二十二番地の田地六畝十二歩を昭和二十七年八月三十一日附発行の買収令書を交付して買収した処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のように述べた。

右請求の趣旨記載の土地は原告の所有であつたが、これにつき訴外高森町農地委員会は昭和二十三年十一月十五日訴外谷三郎からの自作農創設特別措置法(以下自創法という、尚単に条項のみを示す場合は自創法のそれを指すものとする)第六条の二第一項による請求により、昭和二十年十一月二十三日(以下これを基準日という)現在の事実に基くものとして第三条第一項の規定により買収すべく所謂遡及買収計画を立てたので、原告はこれに異議申立をしたところ、同委員会は昭和二十三年十二月二十四日附で原告の異議申立を却下した。原告はこれに不服であつたので同委員会にその旨申出たところ、係員が本件土地につき売渡計画が立てられる際原告の弟藤村貴好に売渡して貰うようにすればよいではないかと言つたので原告は訴願をしなかつた。しかるに本件土地が貴好に売渡されるような売渡計画は立てられず、その為本件土地の売渡に関してはいろいろの経緯を経て現在に及んでいるが、その間被告は前記買収計画に基き昭和二十七年八月三十一日附買収令書を発行し、同年九月三日、これを原告に送達交付してこれを買収した。しかし本件買収処分は次に述べる理由によつて違法であるからその取消を求める。

一、本件土地は昭和十九年迄訴外谷倉吉が原告から賃借しこれを耕作していたものであるが、同人は昭和十九年七月二十一日死亡した。ところが同人は死亡当時独身者でその相続人がいなかつたので同人の死亡に因り本件土地に対するその賃借権は消滅した。その後昭和二十一年四月二十八日に至り前記谷三郎が亡倉吉の家督相続人に選定されその家督を相続したのであるが、本件土地の賃借権は前述のとおり已に消滅していたのでこれを相続するに由なく、従つて基準日現在に於て谷三郎は本件土地につき何等の権原を有しなかつたものである。仮に同人が倉吉の有した本件土地の賃借権をも相続したとしても、同人は昭和十九年五月二日に応召出征し昭和二十一年二月十七日に復員帰還した者であるから基準日現在に於て本件土地を耕作できた筈がない。従つて谷三郎は本件土地につき遡及買収計画の樹立を請求する適格を有しない者であつて、かゝる者の請求によつて立てられた本件の買収計画は違法である。被告は第六条の二第一項による小作人の請求がない場合でも市町村農地委員会は第六条の五により職権で買収計画を定めることができるのであるから、谷三郎の前記請求に瑕疵があつたとしても本件買収計画は第六条の五によるものとして適法であると主張するが、第六条の二による買収計画と第六条の五によるそれとではその手続及び審議方法を異にする故両者を同一視することはできない。

二、本件土地は前述のように谷倉吉の死亡によりこれに対する同人の賃借権が消滅したので爾来原告がこれを自作していたものである。仮に被告主張のように倉吉死亡の頃から昭和二十一年春にかけて訴外梅田キクと梅田三之允(以下梅田方という場合はこの両者を指すものとする)がこれを耕作していたとしても、それは何等の正権原に基かないものであるから不法の耕作である。従つていずれにするも基準日現在に於て本件土地は小作地ではなかつた。

三、仮に谷三郎又は梅田方のいずれかゞ基準日現在に於て本件土地を適法に耕作していたとしても、昭和二十一年四月原告は本件土地を引き上げ爾来その頃復員帰還して原告と同居しその世帯員となつていた原告の弟藤村貴好と共にこれを耕作したのに、本件買収計画樹立に至るまで谷三郎からも梅田方からも何等の異議が述べられなかつた。従つて右の引き上げは適法且正当のものであつて、本件土地は自創法第六条の二第二項第一号に該るからこれを買収すべからざるものである。

四、原告は貴好の妻子をも含んでその世帯員全部で十一人、専ら農業のみによつて生計を営むものである。その所有農地も玖珂町に田六反八畝十一歩外畦畔二畝二十三歩及び畑六畝二十四歩外畦畔二十四歩、高森町に田六反四畝二十七歩の外畦畔五畝三歩(但し本件係争地を含む)あり、農業用設備も完全、労働力も充分である。これに反し谷三郎は僅少の耕作地を有するに過ぎず、その農業用設備も不完全な農家であり、又梅田方では三之允は昭和二十四年春に死亡し、キクは年齢已に七十余歳で労働能力なく、その長男は高森郵便局に勤務して農業を為さず、僅かに長男の妻だけが農耕に従事している状態で、同家は所謂飯米農家である。さればかゝる者に売渡さんが為に専業農家たる原告の田地を基準日現在の事実に基いてまで買収する必要は毫もないのであつて本件買収処分は右の意味に於て被告の権限濫用である。

五、又本件買収計画樹立当時本件土地を耕作していた原告及び貴好の生活状態は、これを買収されると谷三郎又は梅田方の生活状態に比較し著しく悪くなる状態であつたから本件土地は自創法第六条の二、第二項第四号に該るもの乃至これに準ずべきものであつてこれを買収すべきでない。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

原告の請求原因事実中原告所有であつた本件土地について自創法による買収計画樹立、異議、買収令書の発行、交付が原告主張の経過で行われたこと、右の買収計画に対し原告は訴願を為さなかつたこと、本件土地は昭和十九年まで谷倉吉が原告から賃借して耕作していたが、原告主張の日同人が死亡し、その後原告主張の日その主張の経緯で谷三郎が亡倉吉の家督相続をしたこと、及び谷三郎は原告の主張の日に応召出征しその主張の日に復員帰還した者なので基準日現在本件土地を耕作していなかつたことはいずれもこれを認めるが、その他の事実は否認する。乃ち谷倉吉は昭和十九年七月二十一日死亡したのであるが、これにより谷家は事実上断絶したのでその頃倉吉の妹梅田キクとその夫梅田三之允が本件土地を原告から賃借し、昭和二十一年春までこれを耕作したものであつて基準日現在本件土地は梅田方の耕作する小作地であり、他方谷三郎は倉吉及びキクの甥であつて、昭和二十一年復員帰還後亡倉吉の家督相続を為し本件土地の賃借権もこれを承継したものであり、倉吉死亡以前からその親族間に於て同人を倉吉の相続人とすべく予定されていたので、同人はその応召中に於ける梅田方の本件土地耕作をば谷家の為の管理行為と思い、自己に第六条の二、第一項による請求を為す資格ありと信じて右の請求をしたものであるから本件の買収計画は適法である。仮に谷三郎が右の請求を為す適格を欠く為に本件買収計画が第六条の二によるものとして違法であつても、第六条の五によれば小作人からの請求がない場合でも市町村農地委員会は第六条の二によるのと全く同一の要件裁量手続を以つて買収計画を定めることができるのであつて、その効果に於ても同一であるから、本件買収計画は第六条の五によるものとして適法である。原告は昭和二十一年春本件土地を当時の農地調整法に定める手続を経ずに自ら耕作する為ではなく、藤村貴好に小作させる目的で違法且つ不正に梅田方から引き上げた。又梅田方は父祖以来の農家で家族は現在七人、そのうち従農者五人、耕作地として田四反、畑一反五畝を有し、農業用具も備わり、牛経験も充分で現在の耕作面積ではその耕作能力にとつて寧ろ不足する程である。原告が本件田地六畝余程度を失つてもその生活状態が悪くなるということはなく、仮にそれが悪くなるとしても本件買収計画当時これを耕作していたのは原告ではなくして貴好であるから本件土地は自創法第六条の二第二項第四号には該らない(立証省略)。

三、理  由

高森町農地委員会が昭和二十三年十一月十五日原告の所有であつた本件土地につき、谷三郎からの自創法第六条の二、第一項による請求により基準日現在の事実に基くものとして第三条第一項の規定により買収すべく買収計画を定め、被告は右買収計画に基き昭和二十七年八月三十一日附買収令書を発行し、これを同年九月三日原告に送達交付して本件土地を買収したことは当事者間に争いがないところである。以下順次争点につき判断する。

一、谷三郎は基準日現在本件土地を小作していた者ではなく、従つて第六条の二第一項による請求を為す適格を有しない者であるから同人の請求によつて立てられた本件買収計画は違法であり、従つて本件買収処分も違法であるとの原告の主張について。

谷三郎が基準日現在本件土地を耕作していなかつたことは被告の認めるところであるから同人が第六条の二第一項による請求を為す適格を有しなかつたことは明かである。しかし原告が高森町農地委員会により本件買収計画に対する異議申立を昭和二十三年十二月二十四日附で却下されたまゝ――その却下決定書謄本が右日附の頃原告に交付されたことは弁論の全趣旨から窺える、――これに対し訴願しなかつたことは原告の自認するところであつて、原告は右訴願期間の満了によりその頃本件買収計画の取消を求める権利を失つたものであるから本件土地買収処分取消の訴に於てはもはや原告は谷三郎が右条項による請求を為す適格を有しなかつたことの故を以つて本件買収計画を争い引いて本件買収処分の違法を主張することは許されないところと解する。何となれば自創法が農地買収計画自体につき異議、訴願、訴訟を認めていることに鑑みれば、農地所有者が買収計画に対し異議申立や訴願を為さず、又は訴願裁決に対し出訴期間を徒過してその取消を求める権利を失つた以上は、買収計画に存する瑕疵は、該買収計画を当然無効ならしめるもの――買収計画が無効ならこれに基く買収処分も瑕疵を帯びる――、及びその内容に存するもの――この瑕疵は性質上買収処分にも共通するものとなる――を除き、該買収計画に基く買収処分の取消を求める訴訟に於てその取消事由としてこれを主張し得ないものと解すべきところ、第六条の二、第一項によつて請求した者が仮令請求適格を有しなかつたとしても単にそれだけの瑕疵では少くとも右請求によつて立てられた買収計画を当然無効ならしめる程重大なものとはいえず、――第六条の五の規定によれば市町村農地委員会は小作人の請求がない場合でも職権により第六条の二によると同一の要件、手続を以つて買収計画を定め得ると共に、右要件該当の小作地については買収計画を立てるべきか否か必ず審議しなければならないことを考うべきである――且つ該買収計画が何人の請求によつて立てられたかはその内容に関係のないことだからである。よつて原告の前記主張は採用に由ない。

二、基準日現在本件土地は小作地ではなかつたとの原告主張について。

先ず本件土地を谷倉吉が原告から賃借して耕作していたが同人は昭和十九年七月二十一日死亡したこと、及び右死亡の際同人には相続人がなかつたことは当事者間に争いない。そこで倉吉死亡の頃から本件土地を誰が耕作するようになつたかを審究してみるに、証人藤村貴好の証言によつて成立を認め得る乙第二号証の二、成立に争いない乙第四号証、第九号証、証人宮本乙一、渡辺兼吉の各証言を綜合すると、昭和十九年春倉吉が病気の為本件土地の耕作ができなくなつたので、その妹梅田キクとキクの夫梅田三之允が原告から本件土地を小作料を収穫高の半分とし、期間の定めなしに賃借し、爾来引き続き昭和二十一年の春までこれを耕作したことが認められる。成立に争いない甲第八号証(別件に於ける原告の訊問調書)、原本の存在とその成立に争いない第十九号証(原告の高森町農地委員会に対する異議申立書写)の各記載内容、及び原告本人訊問の結果中所論争点に関する部分はいずれも右の認定に反するものであるが、相互に矛盾する点があるので措信できず、又成立に争いない甲第三号証、第六号証、及び前示第八号証によれば、昭和二十年度に於て原告居住部落の部落会長の許に本件土地を原告が耕作しているものとして届け出られていたことが認められるが、前示甲第六号証、第八号証に所論争点の認定に供した前記諸証拠を併せ考えると、右の事実は供出割当や肥料配給割当の関係で便宜上本件土地の耕作者名義を原告としていたことを示すに過ぎないものと認めざるを得ないし、他にさきの認定を覆すに足りる証拠はない。されば基準日現在に於て本件土地は梅田キク及び梅田三之允が耕作していた小作地であつて、原告の前記主張は採用できない。

三、本件土地は自創法第六条の二、第二項第一号に該当するものであるからこれを買収すべきでないとの原告主張について。

前記乙第四号証、藤村貴好の証言並に弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二十一年の六月頃梅田方から本件土地を引き上げ、その弟藤村貴好と共にこれを耕作し始めたものであるが、原告は右引き上げの前提として梅田方との間の本件土地賃貸借契約を解約したことについては何等の主張を為さず、却つて乙第四号証、渡辺兼吉の証言、並に弁論の全趣旨を綜合すると、昭和二十一年二月梅田キクの甥に当る谷三郎が復員帰還し、同年四月二十八日亡倉吉の相続人に選定されその家督を相続したので、(以上の点は当事者間に争いのないところである。)梅田方では同人に本件土地の賃借権を譲渡しようと考えその旨原告に折衝したところ、原告は梅田方になら貸すが谷三郎には貸さぬと言つて右譲渡を承諾せず、そのまゝ荏苒時を経るうち、原告は梅田方に無断で突如前記措置に出でその為梅田方ではやむなく本件土地耕作の業務を止めるに至つたものであることが認められる。右の認定を左右するに足りる証拠はない。されば原告の梅田方からの本件土地引き上げは不法のものであつて爾余の点を判断するまでもなく本件土地が第六条の二、第二項第一号に該当しないことは明かであり、原告の前記主張は採用できない。

四、本件買収処分は被告の権限の濫用であるとの原告の主張について。

仮令原告主張のような事実があるとしても、それだけで本件買収処分が被告の権限濫用とは認められないから原告の主張は採用できない。

五、本件土地は自創法第六条の二、第二項第四号に該当するもの乃至これに準ずべきものであるからこれを買収すべきではないとの原告の主張について。

原告が昭和二十一年六月頃梅田方から本件土地を不法に引き上げたことは已に述べたとおりである。しかして小作地の引き上げが不法に行われた場合は農地所有者の生活状態と基準日現在の小作人の生活状態との比較を云々するまでもなく第六条の二、第二項第四号の規定は適用も準用もないものと解すべきであるから爾余の点を判断するまでもなく原告の前記主張は採用できない。

以上のとおりであつて本件買収処分には違法の点がなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 河辺義一 榧橋茂夫 宮崎富哉)

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